『ニーチェ・セレクション』

渡邊二郎編、平凡社ライブラリー。

 この本は、ニーチェの著作等からテーマ別に色々と引っ張ってきて編み上げたアンソロジーである。大きく四つに章立てされており、1.人生と思索、2.神の死とニヒリズム、3.力への意志と超人、4.運命愛と永遠回帰、とから成る。それぞれの章はあくまでテーマ別に組み立てられており、時代順ではない。しかしながらこのやり方の方が、時代順に編まれるよりも、よりニーチェの思想を反映させられるように思われる。それが編者の狙いでもあったはずだ。ここではそのすべての章についてコメントすることはしない。以下、この本全体を読んで私が感じたことを述べたい。
 これまでの私のニーチェに関する知識といえば、高校の倫理社会で習った「神は死んだ」、「ニヒリズム」、「ツァラトゥストラ」というキーワードくらいのものである。だからニーチェの思想に触れたのは今回が初めてと言っていい。ここで私は敢えて「ニーチェの哲学」と書かずに「ニーチェの思想」と書いた。そうなのだ。私の言語観から言うと、ニーチェはどうも哲学者というよりは思想家という感じがしてしまうのだ。何故なのかはよくわからない。ニーチェは一般に哲学者ということになっているから、私の言語観がおかしいのだろう。もうひとつこの本を読んで思ったのは、まるで新約聖書のようだ、ということだ。特に『ツァラトゥストラ』からの引用についてそう感じた。神の死について論じたニーチェの著作群(抄ですね、正確には)を読んでキリスト教の新約聖書を読んでいるように感ずるとは皮肉なことである。
 全体的に、私はニーチェの思想が好きではないらしい。「1.人生と思索」の前半部は一種の箴言集のような形になっており、おもしろく読ませてもらった。。私が元々、ラ・ロシュフーコーや芥川龍之介の「侏儒の言葉」などの箴言が好きなせいなのかもしれない。ところが2章、3章と読み進めていくに連れ、何かもやもやした気分が立ちこめてきて、ああ、考えが合わないな、と感じた。その後4章を読むと、強い拒否感はやや薄れて、なるほどそういう考え方も成り立つんだな、というところで落ち着いた。
 編者によると、ニーチェの思想は「生きる勇気を与える思想」らしい。と同時に「場合によっては、あまりにも「危険」で過激な要素を孕むことも否定できない」ともある。私は後者の印象を強く持ってしまったが故に、彼の思想が好きでなくなってしまったのだ。しかしながら私がそのような印象を持ったのは、彼の思想を深く理解できたわけではなかったことも影響していると思われる。もっとニーチェの側に立ってきちんと読み進めていたなら、生きる勇気を与えられていたのかもしれない、とも思う。いずれにせよ、この本1冊を読んだだけでニーチェを理解しようと思うのは無茶な話である。ただ、ニーチェ初心者の私でも十分に楽しめたことは事実である。
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shizukiaki

札幌で絵やイラストを描いています。音楽や読書も好きなので、ブログではいろいろなジャンルの投稿をしています。