『経済は感情で動く』マッテオ・モッテルリーニ

 泉典子 訳。紀伊國屋書店。副題は「はじめての行動経済学」。

 従来、経済学で対象とする人間は、いつでも自分が最大の利益を得られるように合理的・冷徹に行動する、というホモ・エコノミクス(経済人)であった。それに対して行動経済学では、そんなに合理的でもなく感情に左右されてしまうごくごく普通の人間を対象にして、その人間がどのように選択・行動して、どのような結果になるかということを研究する。本書はこの行動経済学から得られた知見をクイズ形式にして我々に紹介してくれる。月給とボーナスの使い方のように「同じ金額に異なった貨幣価値を与え」たり、「脂肪分5%のヨーグルトより無脂肪分95%のヨーグルトがよかったり」する例などが次々と提示される。そして自分がいかに不合理な選択をするのかとういうことに気づき、はっとする。こうして自分の陥る罠に気づくことによって、今後同じ場面に出会ったときにちょっと立ち止まって考え直してみることができるようになる。ずるがしこい人はこのことを利用して他人を自分の思い通りに動かそうとするかもしれない。いずれにせよ、この本を読むことで人間のある一面を知る手助けとなってくれるだろう。パート2の題名が「自分自身を知れ」であることもその証左である。
 この本は経済学についての本ではあるが、病気の判断や選挙での選択、痛みの感じ方など、経済とは関係のない話題も多く取り上げられている。これは行動経済学というものが心理学と深い関係にあることも一因であろう。こうした身近な話題が多いことで、パート1、パート2は非常に読みやすい。
 しかしこれがパート3になると少し様相が変わり、神経経済学の領域に入り込んできて、とたんに取っつきづらくなる。神経経済学とは、「PET(ポジトロン断層法)やfMRI(機能的磁気共鳴画像)などの脳の画像技術を駆使し、人がある行動や選択をするときに、脳のどの部分がはたらいているのかを調べることで、合理的判断がはたらいているのか、それとも感情が作用しているのか」研究したり、「脳のなかのホルモンが人間の行動にどのような影響をあたえているか」について調べる学問である。とはいえ話題のおもしろさ自体は失っていないので、脳科学に関する用語が出てきたら、そこは何となく読み飛ばせば、十分に楽しめる。
 この本は全体的に見ると、雑多な話題がむりやり押し込まれている感じで、あまりまとまりがない。話の流れが見えづらいので、話の核心が何なのかよくわからない面もある。また致命的な誤訳もあったりして、訳文がまずいところも散見される。しかし個々の話題の内容だけを見ると非常に興味深いことが書かれているので、ぱらぱらっと適当なところから読むやり方だと、楽しめると思う。言い換えると、木を見て森を見ない読み方をする、と割り切って読んだ方が、変なことを考えないで楽しく読めるだろう、ということだ。
 以下、この本に出てきたキーワードを単純に並べて終わりとしたい。
 「選考の逆転」「保有効果」「コンコルドの誤謬」「サンクコスト(効果)の過大視」「アンカリング効果」「ヒューリスティスク」「代表性」「利用可能性」「小数の法則」「平均値への回帰」「後知恵」「ホモ・エコノミクス」「フレーミング効果」「損失回避(性)」「省略の誤り」「後悔回避」「プロスペクト理論」「ポートフォリオ理論」「自信過剰」「ピーク・エンドの法則」「ゲーム理論」「ソマティック・マーカー仮説」「時間的な選考の逆転」「神経経済学」

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shizukiaki

札幌で絵やイラストを描いています。音楽や読書も好きなので、ブログではいろいろなジャンルの投稿をしています。