『「抗体医薬」と「自然免疫」の驚異』岸本忠三/中嶋彰

 講談社ブルーバックス。副題は「新現代免疫物語」。
 内容はあまりにも複雑怪奇で多岐に亘るので、うまく概要を説明する自信がない。でも著者はそれを丁寧にかみ砕いてわかりやすく述べているので、一気に読む分には理解できるであろう。最近上梓された本だけあって、最新の情報が詰まっている。
 取り上げている免疫システムは、もともと人類に備わっている「自然免疫」と、生後病原菌などと出会うことによって抗体が作られて身につける「獲得免疫(従来は単に「免疫」と言っていた)」の二つ。例として多く取り上げられている病気は、インフルエンザ、関節リウマチ、癌の三つである。著者はこれらについての説明を単に述べるのではなく、これに関する知見がどのような人達によって、どのように明らかにされたのかについて詳しく述べている。免疫を中心とした多人数についての伝記、と言ってもいいかもしれない。
 つい最近まで、マクロファージや樹状細胞といった食細胞が担う自然免疫は、体に入ってきた異物は何でもかんでも攻撃してしまう原始的な免疫システムで、獲得免疫に比べると劣るものだと考えられていたらしい。それがある日本人によって、病原体センサーである何種類かのTLRが、病原体のDNAやRNA、鞭毛などまで感知していることを解明し、一躍注目を浴びるようになった。癌を免疫の力で治そう、といった趣旨の本が何冊も出ているが、これは自然免疫の力を利用しようということだ(違うかも知れない。後述する抗体医薬、つまり獲得免疫のシステムを利用した癌の治療薬が存在するからだ)。有名な丸山ワクチンもこの原理に根ざした医薬だが、効用は限定的だったらしい。今でもまだ癌治療の主流は抗癌剤と放射線治療だ、というくだりを見ると、少し悲しくなる(この本を読むとそれだけ免疫に対する思い入れが強くなってしまう、というわけだ)。
 対して獲得免疫。一度見た病原体(抗原)の顔をメモリーBリンパ球が覚えていてくれるお陰でそれは発動する。病原体が体内に入ると、まずはマクロファージがそれを病原体だと認識し、攻撃を始める(これは自然免疫)。その後マクロファージの仲間の樹状細胞が病原体の一部を食いちぎってヘルパーTリンパ球に提示する。そして病原体の正体を知ったヘルパーTリンパ球がBリンパ球に抗体を作るよう指示し、その抗体が病原菌を攻撃する。この流れの中にはキラーTリンパ球とか、インターロイキン6などの情報伝達分子(サイトカイン)とかも介在するが、ざっと言えば獲得免疫はこのように働く。この抗体の働きを利用してつくられたのが抗体医薬だ。これの出現によって革命的に治療が進むようになった病気の例として、関節リウマチが取り上げられている。この病気に使われる抗体医薬は、抗インターロイキン6受容体抗体であるアクテムラや、抗TNF抗体であるレミケードだ。他に、抗体医薬ではないがTNF阻害剤であるエンブレルも紹介されている。(以前書いたシェーグレン症候群には無効であるとされるTNF阻害剤は、レミケードやエンブレルのことを指すのだと思われる)
 ここまでの話はいわば基本部分。この本の中身はものすごい量の専門用語と人名で詰まっている。これを素人が読んでも分かるようにかみ砕いて説明する様は見事としか言いようがない。免疫が強いとか弱いとかいうレベルの話は全く出てこない。免疫研究の最新情報をきちんと知りたい人にはいい本だと思う。

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shizukiaki

札幌で絵やイラストを描いています。音楽や読書も好きなので、ブログではいろいろなジャンルの投稿をしています。