『急に売れ始めるにはワケがある』マルコム・グラッドウェル

 高橋啓訳、ソフトバンク文庫。副題は「ネットワーク理論が明らかにする口コミの法則」。
 キーワードは原題にもなっている「ティッピングポイント」(The Tipping Point)であり、本書によると、「あるアイディアや流行もしくは社会的行動が、敷居を越えて一気に流れ出し、野火のように広がる劇的瞬間のこと。」である。これには三つの原則があり、それは「少数者の法則」、「粘りの要素」、「背景の力」だという。本書では主にこれらの原則を解説することにより、急に売れ始めるワケを説明している。
 爆発的感染を起こすのに大量の人々に訴えかける必要は必ずしも無い。ごく少数の人がきっかけを作り、感染が広まっていくのだ、というのが「少数者の法則」。この少数者には3種類の人間がいる。知り合いが多く、沢山の分野に接点がある「コネクター(媒介者)」。コネクターが人脈の専門家に対して、情報の専門家が「メイヴン(通人)」である。「メイヴンには、口コミによる伝染を始動させるための知識と社交的技術が備わっている」という。そして最後が説得のプロである「セールスマン」である。この3種類の特性が一人の人間に備わっている例も取り上げられる。
 「粘りの要素」はちょっと説明しづらい。著者は「記憶に粘る」という表現をしている。『セサミ・ストリート』、『ブルーズ・クルーズ』というTV番組を例に出して、番組が成功した理由を「粘りの要素」という観点から解説している。
 「背景の力」とは、「感染は、それが起こる時と場所の条件と状態に敏感に反応する」というものである。この説明には、『ブルー・オーシャン戦略』でも取り上げられていたニューヨークの犯罪率低下についての事例が使われている。両書の視点の違いがおもしろい(矛盾したことを述べているわけではない)。「割れ窓理論」という言葉は覚えておいて損はないかと思う。「行動の方向性を決めるにあたって、心に抱いている確信とか、今何を考えているかというようなことは、行動している時のその場の背景ほど重要ではない」との記述は衝撃である。また、「150の法則」というものはおもしろい(読んでみてのお楽しみ)。
 ざっと説明するとこんな感じである。個人的には「第7章 自殺と喫煙」以外は楽しめた(この章は統計値の扱いに恣意性を感じるし、倫理的に好きではない)。事例が豊富でわかりやすい。ただ外国の固有名詞(特に人名)に慣れていないために起こる読みにくさは感じた。これはしょうがないことだ。全体としては悪くない。

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shizukiaki

札幌で絵やイラストを描いています。音楽や読書も好きなので、ブログではいろいろなジャンルの投稿をしています。