『世界は分けてもわからない』福岡 伸一

 講談社現代新書。著者は分子生物学者。だからこの本は量子力学の本ではなく、分子生物学の本である。
 部分の総体が全体を表す、と考えるのは間違いだ。さらに言えば、「世界に部分はない。部分と呼び、部分として切り出せるものもない。そこには輪郭線もボーダーも存在しない」。もっと言えば、「この世界には、ほんとうの意味で因果関係と呼ぶべきものもまた存在しない」。だから、「世界は分けてもわからない」(そうは言っても、世界は分けないことにはわからない。悩ましいところだ)。
 物語は、イタリアのパドヴァから始まる。そしてベルリン、ヴェネツィア、ロスアンジェルス、相模原、・・・、ニューヨーク州のイサカへと世界中を飛び回る。それらの物語がそれぞれパッチワークの1枚の布となり、そのパッチワークの一片は他の布と有機的につながり、ひとつの大きな作品へと昇華する。それぞれの布は一見すると何の関係もなさそうに見えるが、その実どの一片にも無駄はなく、物語の後半で見事な完成を見る。それはまるで推理小説に出てくる名探偵が事件の解決を図る、まさにその一場面を見ているかのようだ。
 ヴェネツィアにあるインクラビリ(不治の病という意味)と名付けられた水路の意味するところ(この本の中での)が氷解するときの感覚はなかなか言葉では言えない。
 ここでそのからくりを説明することはしまい。ただ、ひとつだけ印象に残ったたシーンを紹介したい。コーネル大学でなされたマーク・スペクターの実験の様子である。その手先の描写は真に迫っていて感動的ですらある。数年前一緒に働いていた同僚を思い出さずにはいられなかった。

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shizukiaki

札幌で絵やイラストを描いています。音楽や読書も好きなので、ブログではいろいろなジャンルの投稿をしています。