『コルシア書店の仲間たち』須賀 敦子

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 文春文庫。
 ミラノのヴィットリオ・エマヌエーレ通り沿いに、コルシア・デイ・セルヴィ書店は、かつてあった。戦後まもなくから1970年代初頭まで、サン・カルロ教会の軒を借りるかたちで存在したその書店は、聖と俗の垣根をとりはらう新しい共同体を目指して、ダヴィデ・マリア・トゥロルドが中心となって開いたもので、カトリック左派の人々が出入りしていた。
 この本は、そんな人々のひとりひとりにスポットを当ててつづったエッセイである。やわらかいながらも確かな筆致で、優しく包み込むようにして形づくられていく人物像は、どれもこれも魅力的で、どんどん引き込まれていく。著者を書店に導いてくれた、いつも入り口近くの椅子に座っていた名家の老嬢、ツィア・テレーサ。ダヴィデが遠のいたあとに書店を切り盛りしていた、夫のペッピーノ。知恵者であったカミッロやガッティ。文学好きなフェデリーチ夫人。パレスチナのユダヤ人、アシェル・・・。
 その他多くの人々の物語がかたどるコルシア書店というひとつの有機体は、確かにミラノの歴史の一頁を占めていたのだ。その書店がやがて、宗教的、思想的な理由で解体されていくのを見るにつけ、それらすべてがまるで幻であったかのような感覚に陥り、ミラノという町じたいも変質してしまったかのような、そんなうらさびしい気持ちにおそわれる。
 書店の仲間のひとりであった著者から見た、美しくも哀しい物語である。

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shizukiaki

札幌で絵やイラストを描いています。音楽や読書も好きなので、ブログではいろいろなジャンルの投稿をしています。