『たまたま』レナード・ムロディナウ

 ダイヤモンド社。Lenard Mlodinow。田中三彦、訳。副題「日常に潜む「偶然」を科学する」。
 著者によると、ビル・ゲイツの成功も、ブルース・ウィリスの成功も、偶然の産物だという。同じような才能を持ち、同じような境遇にありながら、成功者と失敗者が出るのは、何も特別な理由あってのことではない。すべては「たまたま」である。同じ事象をとっても、実際の世界ではランダムネス(ばらつき)が存在し、たまに極端な結果が出ることは何の不思議もない。例えば二つのチームでワールドシリーズを戦うとき、一方が55%の確率で勝つことが請け負えるとしても、7試合制で勝負を行うと、10回に4回は弱いチームが優勝する。
 本書は、身近な話題を通して、確率と統計の話を一般向けにわかりやすく解説したものである。数式は一切出てこない。人が陥りがちな直感と現実との差異についてや、ギャンブルの話、統計学の歴史など、話題は豊富である。目から鱗の情報が結構ある。容易には受け入れがたいものも含めて。
 たぶん述べられていることは正しい。でも「たまたま」あることが起きることを前面に押し出しすぎているために、読後にある種の虚無感みたいなものを感じてしまう。努力と実力は成功とは何の関係もないのか、みたいな。実は著者は、何の関係もない、とは言っていない。最後の方で、ほんの少し努力の有用性を述べたりもしている。ただ、世の中には、成功した人は偉くて、失敗した人は劣っているんだ、という考えがあまりに拡がりすぎているために、それは実力のせいだけではなく、偶然の作用が強く働いているんだよ、ということを強調して述べざるを得なかっただけなのかもしれない。間違った常識と実際の世界との間のバランスを取るために。

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shizukiaki

札幌で絵やイラストを描いています。音楽や読書も好きなので、ブログではいろいろなジャンルの投稿をしています。