『猪木詩集「馬鹿になれ」』アントニオ猪木

 角川文庫。
 3月も初めの頃だったろうか。限りなく白に近いセルリアンブルーの空は遙か遠く高い位置にあり、まだ春の訪れがずっと先であることを指し示していた。連日の凍てつく空気は、肌を刺し、それだけでなく、身動きがとれなくなって弱り切っていた私の心までも、容赦なく攻撃してきた。そんなとき、これ、読んだ方がいいと思うよ、と友人が取り出したのが、少し表面がすれたハードカバーのこの詩集だった。えっ、猪木?正直引いてしまった私は、その場は何とかごまかしてやりすごした。数日経っていよいよ調子が悪くなってきた私の脳裏にこの本のことが浮かんだのは、たまたまのことだったのかもしれないが、今にして思うとそれは必然だった。借りたその足でまっすぐにスタバに向かい、一気に読み干した。
 純粋で真っ直ぐで、無骨さの中にも繊細さを秘めている素朴な言葉。決して上手とは言えない荒削りの詩ではあったが、行間には溢れんばかりの優しさがほとばしっていた。強さからしか出てこない芯のある優しさが。
 ただのいちプロレスラーという認識しかなかった彼の意外な一面を見た。巷(ちまた)の猪木ファンとは違う行き方かもしれないが、今更ながら猪木を再発見した。今では他の作家の詩集に交じって、文庫版の本書が書棚に鎮座している。

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shizukiaki

札幌で絵やイラストを描いています。音楽や読書も好きなので、ブログではいろいろなジャンルの投稿をしています。

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