『錯覚の科学』クリストファー・チャブリス、ダニエル・シモンズ

 文藝春秋。木村博江 訳。
 原題は『The Invisible Gorilla(見えないゴリラ)』。被験者にバスケットの試合のビデオを見てもらい、試合中のパスの回数を数えてもらった。実は途中ゴリラの着ぐるみが会場に現れ、胸を打ち鳴らして去っていったのだが、そのことに気づいた被験者は半数しかいなかった。人は網膜に映っているものが「見えている」わけではない。試合中にいるわけのないゴリラには気づかないのだ。そんな実験の話題からこの本は始まる。
 おわかりのように、ここでいう錯覚は、だまし絵などにみられる錯覚のことを言っているわけではない。日常生活の中などで脳が勘違いする、そういったことを錯覚と呼んでいる。
 自信に満ちあふれている証言と自身のない証言では、自信にあふれている証言の方を正しいと思いこみやすい。でも実際には自信がある方が正しいとはいえない。ここには二つの錯覚が混じっている。証言者がおちいる記憶の錯覚と、証言を聞いている方がおちいる自信の錯覚と。そのほかに、自分が見慣れたものに対しては十分に知っていると勘違いする知識の錯覚、単に相関があるにすぎないものに因果関係をみてしまう原因の錯覚、自分の脳が実は十分に使われていなくて、ある簡単な方法でその限界を解き放てると考えてしまう可能性の錯覚。
 これら数々の錯覚を、豊富な実例や実験を参照しながら、丁寧に解説していく。正直なところ、こんなにも人間の脳が信用ならないことにショックを受ける。この本で取り上げられている自信の錯覚と原因の錯覚については、これまでも十分注意してきたつもりであるが、そのほかの錯覚については本当に無防備だった。モーツァルト効果やサブミリナル効果を信じている人は、まだ多いのではないだろうか。
 この本の最後で、「多くの場合、直感は現代社会の解決に十分適応できない」と警鐘を鳴らしている。注意しなければならない。
 脳がどういったパターンで錯覚を起こすのかを知ることは重要である。そうすれば、その錯覚を修正して正しい判断をすることが可能になる。本書はそのための大きな足がかりとなってくれることだろう。

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shizukiaki

札幌で絵やイラストを描いています。音楽や読書も好きなので、ブログではいろいろなジャンルの投稿をしています。