『Get Together -LIVE IN TOKYO-』矢野顕子×上原ひろみ

 2011年。二人で行ったコンサートを録音したアルバム。
 歌の力は強い。クセのある矢野の声や歌い回しは、どんな曲をも彼女の持ち歌にしてしまう。だからこのアルバムを聴いた初めのうちは、二人のアルバムではなく、矢野のアルバムなんだという印象を強く持った。しかし何度も繰り返し聴くうちに次第に上原の存在感も増し初め、今こうして聴いていると、やっぱり二人が揃ってこそできたアルバムだということが納得できる。それは上原の作詞作曲した6「月と太陽」や、上原の曲に矢野が詞をつけた3「CAPE COD CHIPS -LIVE IN TOKYO-」のような曲が紛れ込んでいるせいだけではない。多くの曲を上原が編曲し、二人のピアノの上に矢野の歌が乗っていることが大きいのであろう。これは個人的な印象だが、矢野のピアノは感傷的で引き算の美学に則っているところがあって、逆に上原のピアノは機械的かつ構成的で、足し算の美学ともいうべきものを持っているイメージがある。一見真逆に見える二人のピアノを上原の構成力がまとめ上げ、すばらしい伴奏を形作っている。いや、これは伴奏というべきではないのかもしれない。ピアノは歌と同等の地位を与えられ、躍動的に曲の主役に躍り出てきている。
 と大上段に振りかぶって勢いづいてしまったが、もしかしたら私が持っていた足し算と引き算の美学のイメージは間違っていたのかもしれない。例えば前出の6「月と太陽」は静かで落ち着いたアレンジだし、5「学べよ」は上原の編曲ではないが、5拍子と6拍子が交互に現れて独特のグルーヴを生み出しており、勝手に上原的だと思ってしまっていた。だとしてもこれは私が勝手に思っていた印象であり、今ここにあるこのアルバムの良さを減じることにはならないだろう。ピアノと歌のすばらしさは変わらない。
 8「ラーメンたべたい」は、マイルス・デイビス(Miles Davis)の「SO WHAT」のモチーフから始まる。そのモチーフをバックに「ラーメンたべたい・・・」と矢野の歌が被さってくるのだが、不思議と違和感がなく、ジャズテイストな「ラーメンたべたい」が繰り広げられる。私は泥臭さすら感じさせる矢野の原曲よりも、この上原編曲による「ラーメンたべたい」の方が好きである。このアルバムの初回限定盤のボーナスDVDにはこの曲が収められており、必見だ。ステージの上で向かい合ったピアノが奏でる息遣い、そして二人の感情までが映像に表れており、ライブ感が見事に伝わってくる。アルバムだけでなく、付録まで贅沢だ。

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shizukiaki

札幌で絵やイラストを描いています。音楽や読書も好きなので、ブログではいろいろなジャンルの投稿をしています。