『嘔吐』ジャン-ポール・サルトル

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 人文書院。鈴木道彦 訳。原題『La nausée』、Jean-Paul Sartre。
 主人公ロカンタンによる日記という形を取っている。ロカンタンは港町ブーヴィルでロルボンという人物について調べている。その町で「独学者」と話をしたり、かつての恋人アニーとパリで再会したりといった交流はあるものの、基本的に彼は孤独な人物である。そんな生活をしているロカンタンにたびたび訪れる「吐き気」。それは何なのか。それがこの小説のテーマである。
 訳者によると、原題の『La nausée』は「嘔吐」というよりは「吐き気」、すなわちムカムカした感じに近い意味だという。ではなぜ『嘔吐』というタイトルなのか。それはあとがきに譲るが、とにかくロカンタンはこの「吐き気」に悩まされる。結局のところ、この原因は「存在」であることが、後に明らかになる(たぶんこのことをここに書いたとしても、これからこの本を読む際の妨げにはならないだろう)。
 ロカンタンの記述はいくぶん哲学めいている。さらにこの小説の大部分はどこか退廃的なイメージに覆われていて、暗い。でもその暗さは研ぎすまされて澄んでいるように感じる。その雰囲気が妙に今の私にはしっくりときて、おもしろく読ませてもらった。ロカンタンには共感できるところも多く、アニーとやりとりしているときの彼の心は、私のふだんの心の動きにそっくりだった。
 訳はとてもこなれていて、読みやすい。万人受けする本ではないと思うけれど、自己省察の好きな人だったら楽しめるような気がする。小説の終わり方が何となくプルーストの『失われた時を求めて』を思わせて、多少の影響を感じる。そういえば訳者の鈴木も『失われた時を求めて』を訳している。気になる。

shizukiaki

札幌で絵やイラストを描いています。音楽や読書も好きなので、ブログではいろいろなジャンルの投稿をしています。