『ギリシア神話入門』吉田 敦彦

 角川選書。副題「プロメテウスとオイディプスの謎を解く」。
 ゼウスに逆らって人間の味方をして人間に「火」を与えたとされる、「先見の明(プロメテイア)」を名として持つ神、プロメテウス。そして、スピンクス(スフィンクス)の謎を解きテバイを救い、人々にあがめられていたテバイの王オイディプス。その二人についての物語を原典から説き起こし、ギリシアの歴史とも絡めながら解説している。
  プロメテウスについては、ヘシオドスの2編の叙事詩『神統記』『仕事と日』、アイスキュロスの悲劇『縛られたプロメテウス』を見比べ、作者によって、あるいは時代によってまったく異なる視点をとっていることを明らかにする。オイディプスに関しては、ソポクレスの『オイディプス王』、『コロノスのオイディプス』から、あまりに不条理で絶望的な悲劇とその救いについて細説している。
 ものすごく深い。そしておもしろい。これまでギリシア神話それ自体を読んでも、おびただしい数の神々や土地の名前の羅列に辟易するだけで、内容が全然頭に入ってこなかった。ところが神話のできた背景や経緯も念頭に置いた本書の解説を読むと、ギリシア神話が実におもしろい物語(こう書くのは語弊があるかもしれないが)であることがわかった。たとえばスピンクスの謎と答えは、一般に「朝は4本足、昼は2本足、晩には3本足であるものは何か。 それは人間だ」というふうに与えられるが、原典では少し違う問いになっていて、その答えも単純に「人間」というだけではない、と説明される。その答えの意味するところは、解説なしではわかりえない。私のような初心者は、神話そのものではなく、解説書のほうをまずは手に取るべきだ、ということを教えられた。
 「人間とは何か」「どう生きねばならぬか」という現代にも通じる謎に、古代のギリシア人がどのように挑んでいたのか、それを垣間見させてくれる良書である。

shizukiaki

札幌で絵やイラストを描いています。音楽や読書も好きなので、ブログではいろいろなジャンルの投稿をしています。