『だれも知らなかった楽典のはなし』東川 清一

 音楽之友社。
 楽典は音楽の文法というか教科書というか、そんな類いのものだと思う。なぜ「思う」なのかといえば、私は楽典というものを読んだことがないからだ。だからここでは、この本は楽典とはどういうところが違っておもしろいのか、といった話はできない。単純に読んだ感想を述べたい。
 音符や音楽記号の話、五線譜の成り立ち、音程について、旋法と調について、音階やリズム、テンポについてなど、おそらくは楽典と同じような項目について書いてある。実際のところこの本はおもしろい。それは単に説明的な音楽理論のみを述べているのではなくて、成り立ちあるいは音楽の歴史をも学べるからだろうと思う。この本はモーツァルト時代の音楽理論家テュルクの『クラヴィーア教本』から引用している説明が多い。だから著者も述べているように、一部に「モーツァルト時代の楽典」という側面も持っている。
 ソのシャープ(嬰ト)とラのフラット(変イ)はもともとは違う音だったのに、なぜ今は同じ音としてとらえられることが多くなったのかという経緯だとか、旋法は固有な5度種と4度種の組み合わせの違いだとか、メトロノーム記号に対する向き合い方だとか、興味深いことがたくさん書かれている。それも根本的なところから教えてくれるので、おもしろい。
 でも難しい本だとも思う。音楽を中学校の授業までしかやってなくて、これから音楽を始めてみようかな、というような人には正直きついと思う。そういう人を対象にしたかのような説明も確かに散見されるのだけれど、大部分は結構マニアックな話題のような気がした。たとえば日本の音階について述べた第8章は、私にはさっぱり理解できなかった。もうひとつ私に取っつきづらかった点があるとしたら、音階の記号が「ハニホヘトイロハ」である点だろうか。ふだんは「CDEFGAB」の方がなじみがあるので、当初は頭の中で変換するのに手間取った。クラシック音楽をやっている人には造作ないことなのかもしれないが。
 趣味で独学で音楽をやってきたけれども、もうちょっと突っ込んだ話を聞きたいという人は楽しめる本だと思う。

shizukiaki

札幌で絵やイラストを描いています。音楽や読書も好きなので、ブログではいろいろなジャンルの投稿をしています。