『都市・地域 水代謝システムの歴史と技術』丹保 憲仁

 鹿島出版会。
 地球は「水の惑星」と呼ばれるように豊富な水に恵まれているけれども、そのうちの淡水は2.7%しかなく、さらに日常的に使える淡水は0.01%にしかすぎない。川や湖から海へ流れ出た水は蒸発して雲になり、雨や雪となって地上に降り注ぐ。その水文大循環の途中の水を人類は利用することとなる。この限られた水を、今後地球上の人口が100億人を超えるというなかで、どのように使っていけばよいのか。地球あるいは人類はそれに耐えられるのか。そのために必要な水システムとは。そのような大きなテーマを扱っているのが本書である。
 著者は地球上の水サイクルを4つに分ける。前出の水文大循環を第1サイクルとして、都市・地域内の第2サイクル、さらに小さなコミュニティ・工場レベルの第3サイクル、そしてもっと小さい個別生産場・生活場である第4サイクルである。本書の中心的議論である上下水道システムは第2サイクルにあたる。また、水俣病は製造工程である第4サイクルで物質収支をきちんと取らなかったために第1サイクルにまで汚染がおよび、公害となったとする。このように、それぞれのサイクル内、あるいはサイクル同士でどのように水の量と質が変換・移動していくのかを考えることが重要だという。
 著者の問題提起のひとつとして、大きなエネルギーを使って人間が飲める水を水道水としてつくり、それを便所や散水などのすべての用途に使うということは、この先やっていけなくなるのではないか、というものがある。一人が1日に使う量は200~300リットルであるが、今の水道水レベルの上質な水は1日50リットルくらいしか必要としていないという。この点をひとつの立脚点として、次世代の生態系にもやさしい水システムはどうあるべきか、という提案を最終章で述べている。この本で取り上げられている興味深い話題は、すべてこの最終章の提案のためにあるといっても過言ではない。とはいえこの提案はひとつの提案にすぎず、ほかの解答を拒否するものではない。
 難しい本だと思う。ローマの水道に始まり現在に至るまでの上下水道の歴史をかなり詳しく書いてある。それは単なる歴史的事実を述べるにとどまらず、水処理や水の輸送の仕組みまできちんと解説している。個別例でいえば、札幌、東京、香港、シンガポールの水システムの歴史はかなり突っ込んだところまで詳説している。ただ、それを460ページほどの本にまとめるのは相当無理があって、たとえば水質変換システムの仕組みの説明は大事なところ以外は大分はしょっていたりする。一度も勉強したことのない人がこれを読んで理解できるかどうかは怪しい。そこは読み飛ばせばいいのだけれど。
 東京という大都市が成り立つためには、その裏に栃木、群馬といった広大な水源地がなければならない。さらにいえばそこに住む人々の口にする食料を作り出すために、膨大な仮想水を海外から輸入していることになる、といったことは、多くの人が知っておいたほうがいい事実なのかもしれない。化石エネルギーに頼らない太陽エネルギーだけでは、日本の人口は4000万人くらいしか養えない、という事実にも目をつぶってはいけないだろう。
 今後の地球を占う上で、エネルギー、食料、そして水の問題はどうしても避けて通るわけにはいかないのだ。そんな大事なことをこの本は教えてくれる。

shizukiaki

札幌で絵やイラストを描いています。音楽や読書も好きなので、ブログではいろいろなジャンルの投稿をしています。

コメントを残す