『「ゼロリスク社会」の罠』佐藤 健太郎

 光文社新書。副題『「怖い」が判断を狂わせる』。
 「リスク」という言葉はやっかいだと思う。少なからぬ人が、「リスク」はあるかないかだと思っている。その食品に入っている添加物は絶対安全ですか?そう質問する人は、「リスク」がゼロになる場合があることを無意識にでも信じている。そしてこの場合、「リスク」のありなしだけを問題にしている。つまり「リスク」を定性的な概念としてとらえている。それに対して、添加物の量がここまでだったらこれくらい危険で、これ以上だったらこれくらい危険になりますよ、というのは、「リスク」を定量的な概念と考えたときの言い方である。日本語としては、どっちも間違った言い方だとはいえない。でも、「リスク」を定性的な見方でしかとらえられないと、事態を見誤る可能性がある。
 たとえばヒトは日常的に塩分を摂っているが、リスクがないというわけではない。リスクが「少ない」だけの話で。塩分の摂りすぎで病気になる人は多いし、それで死にいたる場合もある。要は摂取量の問題なのだ。食品添加物だってそれと同じ話で、摂りすぎれば病気になるし、ちょっとしか摂取しないのであれば、リスクは「少ない」。「リスク」という観点から見ると、塩分も食品添加物も同じ考え方ができる。いや、むしろ同じ考え方をすべきだ、というのが著者の主張である。
 この本は極めて科学的である。「リスク」は「定性的」なものとして扱うのではなくて、「定量的」なものとして扱うべきだ、という点で、一貫している。その上で、多くの人が定量的な判断を行えない理由を説明している。確証バイアスだったり正常性バイアスだったりアンカリング効果だったり。そして、合成保存料や着色料、農薬、トランス脂肪酸、メタミドホス、ホメオパシーといった過去に話題に上った事例を例に、「リスク」の問題を解説している。また、発癌性という考え方の意味するところや、放射性物質の問題についてもわかりやすく説明している。
 いい本だと思う。科学的だけれど、小難しい数式などは一切出てこないし、文章も平易だ。この本に書いてある程度の科学リテラシーはみんなに持っていてもらいたい。そうしたら、この世の中はもうちょっとうまくリスクと向き合えているんだろうと思う。でも現実には冷静なリスクコミュニケーションを取れずに怪しげなメディア情報に振り回される人は多い。そしてそういう人に、この本に書いてあるようなリスク概念を理解し納得してもらうことは、実際にはかなり難しいと私は思う。だって意外と世の中の人は(無自覚に)非科学的だし、さらに本書のリスクの話は理性のなせる業だけれど、人が安心を感じるのは理性じゃなくて感情の問題なのだから。

shizukiaki

札幌で絵やイラストを描いています。音楽や読書も好きなので、ブログではいろいろなジャンルの投稿をしています。