『デジタル時代の著作権』野口 祐子

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 ちくま新書。
 日本の著作権法は複雑怪奇で素人が読み解けるような生やさしいものではない、とはよくいわれる。著作権法ができた当時はそれほど難解なものではなかったらしい。それがどうして今のような形になってきたのかを、19世紀末に国際的な規準として定められたベルヌ条約を始まりとして、順を追って解説している。その上で、今の著作権法は時代にそぐわなくなってきたと述べ、現代、そして未来にふさわしい著作権のあり方について考察している。
 転機はデジタル機器の普及とインターネットの拡がりにあったという。それまで著作権法では想定していなかった事態が次々と起き、数々の裁判でも争われ、法律自体も例外規定を設けるなどの微修正を余儀なくされた。たとえばネット上のコンテンツを見るために一時的にパソコン内のメモリにデータを蓄積することが著作権法上の複製にあたる、というような議論まで出てきてしまったのだという。このように素人目には不条理なことがいろいろと起こるようになってしまった。ではなぜ微修正であって根本改正を行わないのか。それはハリウッドなどの権利団体によるロビー活動などの権利者側の抵抗ももちろんあるが、国際的な約束事であるベルヌ条約の改正が全会一致でなくては認められない、という足枷もあるらしい。加盟国は当然ベルヌ条約に沿った国内法を制定しなければならないのだ。
 著作権法はコンテンツの利用者の自由を守るというよりは、著作権の所有者を守ることに軸足を置いているという。何か作品をつくったら、その時点で著作権が自動的に発生するのがその典型だろう。特許のように申請主義ではなくて発生主義なのだ。
 著者は、それは今の時代にはバランスが悪いのではないか、と述べる。アメリカで科学技術の共有が始まっているように、利用者の自由を重んじた方向に向かうべきではないか、と(初音ミクの最近の流行はこの自由さがもたらすものなんだろうな、と思った)。そして、フェア・ユースとクリエイティブ・コモンズという二つの方向性を紹介する。フェア・ユース規定は一般例外規定とも呼ばれ、法のなかで細かい例外規定をいちいち設けるのではなく、それを一般的包括的に規定しようとするものであり、クリエイティブ・コモンズは著作者が自由に著作物の利用のルール(改変しなかったら自由に使っていいとか、著作者のクレジットを書いてくれたら自由に使っていいとか)を決めるものである。
 この本は著作権の現在を知るのにいい本である(ただし発行が2010年で、著作権法は今年(2012)も改正されたから、最新というわけではないのに注意。でも主張の主旨には影響しないと思う)。個人的にはクリエイティブ・コモンズについてかなり詳しく書いてあったのがうれしかった。著作権者の権利を緩める方向で考えている著者の主張には賛同したくない人もいるかもしれないが、本書に書かれている今の著作権法の持つ問題点の存在は認めざるを得ないだろう。その問題点を共有した上で、これからの著作権をどうしていったらいいのかについて、一緒に考えるべきなのかもしれない。現代を普通に生きていれば、著作権とは無縁ではいられないのだから。

shizukiaki

札幌で絵やイラストを描いています。音楽や読書も好きなので、ブログではいろいろなジャンルの投稿をしています。