『確率・統計でわかる「金融リスク」のからくり』吉本 佳生

 講談社ブルーバックス。副題『「想定外の損失」をどう避けるか』。
 株や外国為替などのリスクを、本書付属のサイコロを転がすことによって実感してもらおう、という趣旨で書かれている。でも実際にサイコロを転がすことによって得られる確率(リスク)も掲載されているので、その数字だけでリスク評価を実感できる人は別にサイコロでシミュレーションしなくてもいいんだと思う。
 レバレッジを利かせたFX取引は高リスク。デイトレードは高リスク。長期運用は低リスク。世間に転がるこんな風説は全部嘘っぱちだと著者はいう。シミュレーションしてみると、こんな結果にはならないという。実際本書で述べられている方法でシミュレーションしてみるとこれらの風説が正しいとはいえないことがよくわかる。ただ、著者のいうリスクは単位期間における資産価値の変動を見ているのではなく、実際の運用期間によって得られる資産価値の変動の絶対値でリスクを比較していることには注意しなければならない。1日の株価の変動よりも1年の株価の変動の方が大きいのは当たり前ですね。
 本書で主にリスク指標として取り上げられているのは、「ボラティリティ」というものだ。これは金融の世界では、株価や円相場などの変化率の標準偏差のことを指す。つまり株などの上がり下がりの度合いのばらつきの指標。ボラティリティが大きいと上がったり下がったりしやすくて(リスクが大きい)、ボラティリティが小さいと上がり下がりも小さい(リスクが小さい)。これを考慮に入れた上でサイコロを転がすと、例えば1ヶ月後に日経平均連動型投信がどう変動するかというのが実感することができる。株価や円相場だけではなく、オプションを使った仕組み債のリスクをシミュレートしたりもできるようになっている。そうやって見ていくと、世の中にはハイリスク・ハイリターンという商品だけじゃなく、ハイリスク・マイナスリターンなんて商品もあるんだということを教えられる。
 実は本書では、上げ相場や下げ相場の見方、ローソク足の見方なんていう類いのことはまったく取り上げていない。純粋に確率、統計的な処理のみでリスク・シミュレーションをしている。それなのにここまでのリスク評価ができるんだということには正直驚いた。むしろ確率、統計的な処理だけで考えるからリスク評価ができているといえないこともないが。本書で述べられている前提に沿えば、確かに著者のいうことは正しい。だから私はこの本の内容が納得できた。でも一般に思われているような常識とは異なる結論になっている部分もある。もしかするとこれは、本書の前提が実経済とは違うからなのかもしれない。その評価は私にはできない。そうではあるけれど、本書のようなリスクの考え方があるということは知っておいて損はないのだと思う。

shizukiaki

札幌で絵やイラストを描いています。音楽や読書も好きなので、ブログではいろいろなジャンルの投稿をしています。