『ゼロからわかる経済学の思考法』小島 寛之

 講談社現代新書。
 著者は経済学を科学だと考えている。しかし他の科学、例えば物理学などに比べて全然進歩していない科学だともいう。なぜ進歩しないのか。それには経済学特有の難しさがあるらしい。経済学は物理学と異なり、法則の検証をするのが難しいというのだ。そして、今はそのような確立された方法論は存在しないが、本書で述べたような経済学の思考法を積み重ねていくことで、経済学に合った科学的方法論が見つかるのではないか、という希望的観測をもって、著者は本書を締めくくっている。
 本書ではミクロ経済学の「需要と供給の原理」について、ゲーム理論などを引き合いに出しながら解説している。説明は論理的で、簡単な数学の知識があれば十分理解できるように丁寧に展開している。ただし言葉遣いはやさしいものの、ちょっと理解に手間取るややこしい部分もあることはある。 本書を読んで一番驚きだったのは、経済学のとっかかりの説明のところで、最初に「お金を無視する」ことから始めていたところである。つまり物々交換の世界である。筆者はそこから始めて、最終的には「需要と供給の原理」を読者が理解できるところまで話を進める。若かりし頃、需要曲線と供給曲線の意味がよくわからず、図を丸暗記していたが、この本を読んでやっと腑に落ちた。
 本書には筆者の思いがいっぱい詰まっている。筆者の思いは、本書でいう経済学の思考法と密接につながっているわけだが、この思考法は必ずしも世の中の経済学者一般の思考法とまったく同じとはいえないのではないか。そんな感想を持った。ここでの思考法は筆者の考える思考法であって、一般のそれとは少しばかりずれがあるのではないか、という疑念である。私は経済学のことはよく知らないので、ことの真偽はわからない。でも世間の経済専門家の話を聞いていると、本書のような科学的思考法をしているとはどうしても思えないのだ。ここまで科学としての経済学の限界を見極めた思考をしているとは思えない。本書は経済学の思考法のひとつの理想型を提示しているのではないか。
 本書を読む限り、経済学が実体経済をきちんと説明できる日はまだまだ先の話だという感想を持った。将来そんな日がやってくるのを楽しみにして待ちたい。

shizukiaki

札幌で絵やイラストを描いています。音楽や読書も好きなので、ブログではいろいろなジャンルの投稿をしています。