『哲学・航海日誌 II』野矢 茂樹

 中公文庫。もともと1冊だった『哲学・航海日誌』(春秋社)を、文庫化にあたって2冊にした2冊目。
 私が扉を開けるとき、腕が伸びたから扉が開いたという因果関係は正しいか(扉を開こうとしたから腕が伸びたではいけないのか)。私が彼を銃で撃って3時間後に死亡したとしたら、いったいいつ殺したことになるのか。料理をしていて塩を取ってほしいとき、「塩がない」と言うことで意図を伝えることがある。言葉にはこのように字義だけでは意味が掴みきれないことがあるが、これをどう考えればよいのか。
 日常に潜むちょっとしたことなのだが、何でも哲学になってしまう。哲学者がこれらのことを解明しようとすると、ともすれば非現実的な解を与えてしまうことがある。例えば最後にあげた例でいえば、「言葉には意味がない」とか「言語なるものは存在しない」とかいう結論になってしまったり。それに対して筆者はあくまで日常の感覚を大切にする。哲学なんて無縁の人でも自然と頷けるような解を求めようとする。 その道のりは決して平坦ではない。読んでいて訳がわからなくもなってくる。でもその答えは十分納得できるものになる。
 本書が対象としている事象は、自由だとか義務だとか抽象的なことではなくて、日常の出来事を元にしていることがほとんどなので、取っつきやすい哲学書(哲学エッセイ)だと思う。

shizukiaki

札幌で絵やイラストを描いています。音楽や読書も好きなので、ブログではいろいろなジャンルの投稿をしています。