『数学的推論が世界を変える』小島 寛之

 NHK出版新書。副題『金融・ゲーム・コンピューター』。
 副題にある金融、ゲーム、コンピューターの3つを貫くツール、それが「数学的推論」なのだと著者はいう。「数学的推論」とはつまりは数理論理のことで、「かつ」「または」「でない」「ならば」などで組み立てられた記号論理のことである。多くの金融取引はコンピューターによって自動化されており、ゲーム理論を使って数学的推論のもとになされる。本書は数学的推論を通じて、現代の金融社会を読み解く視座が得られることを企図して書かれている。
 ロトくじやルーレットなどのギャンブルで確実に儲けるためにギャンブラーがとった方法、金融クラッシュの原因、かの投資家ジョージ・ソロスの稼ぎ方、チェス王者とコンピューターとの戦いなど、興味深い話で読者を引きつけ、それらの話の合間合間に数理論理の解説をしつつ、数学的推論の面白さや重要性を説いている。
 でも、この数理論理の解説は読者にとってかなり手強いと感じる。数学や経済を専門に学んできていない私にとっては、ゲーデルの不完全性定理の証明についていくのは結構きつい。本書にはこのような定理についての証明がいくつも載っている。さらに数理論理の発展の歴史をなぞる感じで、多くの数学者等の名前や定理が出てくる。これは本書の目的にとって必要な項目なのか、少し疑問を感じる。読者を引きつける導入的なトピックと数理論理の解説の間には大きなギャップがあるように思うのだ。数理論理のツールの解説に多くのページを割いた結果、実際の金融への数学的推論の適用については、ちょっとばかり端折らざるを得なかったのではないか。そもそも内容的にものすごくてんこ盛りな感じなので、新書形式ではなく、もう少し違う体裁を採ったほうがよかったのではないかと思う。
 本書はこれだけで完結しているというよりは、数学的推論というのはこんなにおもしろいんだよ、と示すことで、数理論理の世界へと誘(いざな)う足がかり的な本なのだと思う。ただ私はその世界に足を踏み入れる勇気がない。そこはあまりにも難解な世界だという印象を、本書を読んで持ってしまったので。

shizukiaki

札幌で絵やイラストを描いています。音楽や読書も好きなので、ブログではいろいろなジャンルの投稿をしています。