青萠堂。
精神科医でもある著者が、老年になってからあちこちに連載したりした文章を、いくつかのテーマごとにまとめた本である。うつやアルコール依存症などの心の問題と、老年をテーマにした話題が多い。
「とりあえず今日を生き、明日もまた今日を生きよう」。「とりあえず主義」というらしい。カルペ・ディエム(Carpe diem、今を生きよ、みたいな意味)というラテン語があるが、それと同じような意味として本書では語っている(個人的にはニュアンスがちょっと違うような気もするが)。そんな先のことを考えずに、今日をきちんと生きよう。そして明日になればまたその日をきちんと生きよう。と、そのままである。頑張らなくてもいいとも述べている。こういう言葉をかけられると、心が楽になる。そうか、こんな私でもいいんだ。
色んなところで書いた文章を集めてきたせいか、本全体にあまり統一感はない。色んなテーマについて、気軽にさらさらと肩肘張らずに読ませる本だ。心の問題を扱ったところに関しては、さすが長年患者を診てきただけあって、頷けるところが多い。著者の日常を綴った文章もある。ただ、政治的というか思想的な話題が時折入る。なるほどと思うところもあるのだが、それはどうだろうと、ちょっと引っかかる部分もある。この点については読者の好みによるのかもしれない。
全体的に読みやすいエッセイ集である。