『基準値のからくり』村上道夫、永井孝志、小野恭子、岸本充生

 講談社ブルーバックス。副題『安全はこうして数字になった』。
 消費期限や賞味期限、塩分摂取量、水道水の水質、放射性物質、PM2.5、農薬の基準、インフルエンザの出席停止期間、電車内での携帯電話からの電波……。世の中には、実にさまざまな基準値があふれている。でもこれらの基準値ってどうやって決められたんだろう。この基準値を守れば絶対安全なの?少しでも超えればすぐに危険ということ?そんな疑問にこの本は答えてくれる。
 水道水中の発癌性物質の基準は、一生毎日2リットルずつ飲んで、10万人に1人癌で死亡するくらいの確率に設定してある。じゃあ他の基準もこの10万人に1人の確率で決められているのかといったら、全然そんなことはない。日本人ならよく食べているある海藻は600人に1人くらいは癌で死亡する計算になる。米の基準だって結構やばい。でも米をいっぱい食べている日本人が世界でも長寿国に位置するのは周知の事実。米は食べない方がいいとは単純には言えない。水道水中の発癌性物質のようにリスクで決められている基準がある一方、現実的に守れる値に設定してあるものもあれば、できる限りゼロに近い方がいいとして決めているものもある。危険だとわかっているけれど、それよりもベネフィット(利益)の方が大きいからと決められているものもある。同じ「基準値」という言葉で括られているけれど、一筋縄ではいかないのだ。
 「受け入れられるリスク」がどれくらいかということが重要だと繰り返し述べられる。自動車事故で死亡する人が1年間に4千人(すごい高いリスク)もいるのに、便利さの方が上回るから、自動車のリスクは受け入れられている。こんにゃくゼリーは餅よりも飴よりもリスクが少ないのに、悪者にされた。
 その基準値がどういう根拠で決められたのか知っておくと、あまりパニックには陥らなくなるかもしれない。同じ農薬、同じ残留量でも、リンゴと基準値はキクラゲよりも500倍ゆるい。じゃあリンゴは危険かといえばそんなことはない。
 このように、たくさんの例がこの本には掲載されている。基準値に対してどうやって向き合っていけばよいのか、とても参考になる。放射性物質についても多くのページを割いている。物質によっては、基本となる値さえ入手できれば、実際のリスクが自分で計算できるようになってしまう。私たちは数多くの基準値に囲まれて生活している。そのからくりを知って生活するのと、知らないで生活するのとではリスクとの向き合い方も変わってくると言えるだろう。良書だと思う。

shizukiaki

札幌で絵やイラストを描いています。音楽や読書も好きなので、ブログではいろいろなジャンルの投稿をしています。