『科学哲学の冒険』戸田山 和久

 NHKブックス。副題『サイエンスの目的と方法を探る』。
 科学というのは一体どういう営みなんだろうという問いが科学哲学の根っこにはあるんだと思う。例えば電子なんてものがこの世に存在しているのは当たり前なことだと私たちは思っているけれど、本当に当たり前なことなんだろうか。その存在は目に見えないのに、電子はある、って言っていいのだろうか。何をそんな馬鹿げた問いを発しているんだ。あるに決まってるじゃないか。そう答えてしまいがちだけれど、よく考えてみると、それを証明するのはなかなか難しい。電子はあると主張する科学哲学者がいる一方、電子なんか幻想だという学者もいる。
 今書いたのは科学哲学のほんの一例だけれど、理論とか法則ってどんな意味なのかとか、科学的な説明とは一体何なのかとか、科学哲学は本当に科学のさまざまな面に対して色々な疑問を投げかけてくる。本書はその一端について、リケジョであるリカと哲学科の学生であるテツオ、そしてセンセイの3人による対話形式でいろいろと説明してくれる。リカとテツオの頭がよすぎてついていくのが大変なところもあるけれど、この対話はとてもよくできていて、科学哲学というのがどういう営みであるのかがとてもわかりやすく語られる。
 センセイは基本的に科学的実在論という立場に立っている。科学を含む人間の認識活動とは独立の世界が現に存在していて、科学によってそれを知ることが可能だという立場だ。何だか当たり前のことを言っているように思えるけれど、科学哲学にはそのほかに、観念論、論理実証主義、社会構成主義、実在論、反実在論といったさまざまなアプローチがある。本書ではこれらの違いについて解説しつつ、科学的実在論という立場を擁護しようとしているわけだ。
 本書は間違いなくおもしろい。科学哲学というのが何をしている学問なのかよくわかるし(科学哲学の一部なのかもしれないけれど)、3人のやりとりも刺激的でおもしろい。科学哲学の入門書としては、とてもいい線を行っていると思う。
 ただ、著者(センセイ)のいう科学的実在論が本当に科学を適切に表しているかどうかということについては、私にはまだ主張として弱いと感じた。ちょっと逃げているというかごまかしているというか、そんな印象を受けた。どうも私は科学的実在論を信じたい一方、反実在論や対象実在論の方に、よりシンパシーを感じるようだ。

shizukiaki

札幌で絵やイラストを描いています。音楽や読書も好きなので、ブログではいろいろなジャンルの投稿をしています。