『卵のように軽やかに』エリック・サティ

 ちくま学芸文庫。副題『サティによるサティ』。秋山邦春、岩佐鉄男 編訳。
 外はもう日が暮れて人の流れもばらばらになり始めた書店で何とはなしにぶらついていたら、「サティ」という文字と「卵のように軽やかに」というとても心躍らされるタイトルが目に飛び込んできた。そしてそれを手にとってパラパラとページをめくっていると、なんと店内にはサティによる『ジムノペディ』が流れ始めたではないか。こんな偶然ってあるんだろうか。これは読まなければならないと思った。
 内容は、サティによるメモやいたずら書き、書簡、講演原稿、楽譜の隙間を埋めるように書かれた詩編(?)、音楽論、戯曲などからなっている。時代背景がわからないとよく理解できないものも多いし、皮肉なのか諧謔なのかジョークなのか当てこすりなのかもよくわからない断片も多く、半分も理解できなかったような気がする。それでもなぜかおもしろくて楽しい。『乾からびた胎児』だとか『<犬のための>ぶよぶよした前奏曲』だとか独特のセンスで名付けられた数々の楽曲と同じく、この本にあるサティの文章も、なんだかふわふわとして捉えどころがないようでいて時として辛辣な鋭さも持ち合わせていて、つい引き込まれてしまう。サティの生きた19世紀の終わりから20世紀初頭のフランスは、音楽だけじゃなく絵画や文学、舞台などさまざまな分野において私の興味をそそる。彼ら芸術家たちの生活は決して楽だったわけではないのだろうけれど、とても魅力的に見える。ルノワールの『ムーラン・ド・ギャレット』みたいな華やかさと同居している芸術家たちの光と影。しばらく忘れかけていたこの時代への興味をまた思い出させてくれた一冊。

shizukiaki

札幌で絵やイラストを描いています。音楽や読書も好きなので、ブログではいろいろなジャンルの投稿をしています。