『人間の絆』モーム

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 岩波文庫。W. Somerset Maugham。行方昭夫 訳。全3巻。
 モームによる半自伝的小説。あとがきにも書いてあるが、「絆」というのは原題とはちょっとニュアンスが違うのかもしれない。「束縛」とか「隷属」という方が、読後感と合っている。
 足に不自由のあるフィリップが幼い頃両親と死に別れ、伯父夫妻のところに預けられる。そのフィリップが出会う友人や恋人らとの人間模様を通して、人間同士のつながりやフィリップの成長が描かれる。主人公のまなざしはとても率直で飾り気のないものなので、ときにあまりにも生々しくどぎつくも感じられる。人間の嫌な面、良い面がフィリップ自身とその知人たちを通してオブラートなしに語られる。読んでいて不快になることもあるけれど、それは私が自分自身に隠してきた本当の感情が、この小説の中ではあからさまになっていることによるのかもしれない。話の展開は早く、この本が3冊もある小説には思われない。ミルドレッドとの愛憎劇、パリに住む老詩人クロンショーが、これが人生の意味だと言ってフィリップに手渡したペルシャ絨毯の切れ端。波瀾万丈の生き方をしてきた主人公が最後に手にするもの、それは何なのか(最後と言っても30歳くらいであるが)。
 人生や人間関係の機微がこの小説のおもしろさなのは間違いない。しかし、画家を目指していた頃のパリ画壇の話題など、人間模様以外の部分もかなりおもしろい。ただ、結末を急ぎすぎた感がちょっとある。4巻まであっても良かったのではないか。

shizukiaki

札幌で絵やイラストを描いています。音楽や読書も好きなので、ブログではいろいろなジャンルの投稿をしています。