『下流志向』内田 樹

 講談社文庫。副題『学ばない子どもたち 働かない若者たち』。
 90年代以降、学びから逃走している子供たちが増えたという(本書が書かれたのは2007年)。しかもやむにやまれず逃げているのではなく、積極的に逃走している。なぜか。それは彼らが幼くしてこの市場経済の中で、消費主体としての個を確立してしまったからではないかという。何もかも市場原理である等価交換という観点から見てしまう。そしてそれは教育についても例外ではなく、学ぶことという苦痛に見合うだけのメリットがあるかどうかで判断してしまう。メリットがないと感じればそこから積極的に逃れようとする。教育を受けるメリットは教育を受けた後でしかわからないにもかかわらずだ。ニートについてもしかり。働いただけのメリット(賃金等)が得られないから働かない。そんな風に著者は言う。
 もしそうだとすれば未来は暗い。これは構造的なものだからだ。今の社会構造上生まれるべく誕生した「学ばない子どもたち」、「働かない若者たち」。彼らは自ら下流に向かって突き進んでいる。その中でももちろん「学ぶ子どもたち」はいる。そこに格差が生まれる。
 わりと楽しく読んだ。なるほどとは思う。確かに学びから逃走しているように見える子供たちがいる。こうやって考えると、なんとなく辻褄が合っているように感じる。ああ、そういうことだったのかと。でも本当なんだろうか。話題は教育の場から社会生活の場にまで広がるのだけれど、本当にこういう切り口でばっさり切ってしまってもいいのだろうか。何しろここには著者の頭の中以外の根拠がほとんど記されていないから。本書が書かれてから10年近くの歳月が経ち、このことを裏付けるデータは揃ってきたのだろうか。当時とは状況が変わってきたようにも思えるが。ちょっと今の著者の考えを知りたいと思った。

shizukiaki

札幌で絵やイラストを描いています。音楽や読書も好きなので、ブログではいろいろなジャンルの投稿をしています。