『写実絵画とは何か?』安田茂美、松井文恵

 生活の友社。副題『ホキ美術館名作55選で読み解く』。
 千葉市にあるホキ美術館は、世界初の写実絵画専門の美術館である(今はスペインにも同様の美術館がある)。そして、所蔵作品の98パーセントが現代の写実作家なのだという。つまり同美術館は現代日本の写実絵画を代表する美術館と言っていい。本書はその中から選んだ55作品について丁寧に解説することで、写実絵画とは何かを浮かび上がらせようとする本である。
 まるで写真のような、という感覚は誰しも持つだろう。しかしここでの写実絵画は、写真を投影して写真そっくりに描いていくスーパーリアリズムやフォトリアリズムとは一線を画す。その多くは何ヶ月もかけて描いていく主に油絵が中心の絵画である。 確かに写真のようではあるが、それを超えた何ものかがこれらの絵画にはある。レンブラントだってフェルメールだって、当時はそうは言われていなくても、写実絵画を描いていたのだ。それらの絵画が写真とは異なる魅力を持っていることは言わずもがなである。私は決して写実絵画が好きなタイプではないが、本書に載っている絵画の魅力は、観て読んでいると実によく伝わってくる。そしてこの本の特長のひとつは、ほとんどの絵の解説において、それを描いた画家本人の言葉が添えられていることだ。これは所蔵作品の多くを現代作家の作品で占められているからこそできることだ。これらの言葉から、作品に対する思い、写実絵画とは何かについての考え方、製作スタイルや製作背景などを垣間見ることができ、とても興味深い。
 20世紀以降、絵画の主流からは外れてしまった写実絵画ではあるが、それらが現代にも脈々と引き継がれ、今なお発展し続けていることに目を向けさせてくれた一冊である。

shizukiaki

札幌で絵やイラストを描いています。音楽や読書も好きなので、ブログではいろいろなジャンルの投稿をしています。