朝日出版社。
著者は社会学者で、市井の人々(それはマイノリティといわれる人が多かったりするのだが)にインタビューをするなどのフィールドワークを行っている。そんなインタビューの中でも、どうしても分析も解釈もできずに取り残されたもの、どうしてもストーリーにまとめ上げることができなかったもの、つまりは著者の手からこぼれ落ちてしまった断片のいくつかを集めたのがこの本である。
場末のミュージシャン、ヤクザ、ホステス、ホームレス・・・。そんな人たちとの出会いの中で見えてきたもの、あらわれてきたものについて、著者の個人的な経験も絡めながら訥々と語られている。社会学と銘打っているけれど、学究的というよりはエッセーに近い。
ふだん自分の関わることのほとんどないそういった人々の話は、なんだかドラマやドキュメンタリーの中にしか出てこないような感じで、同じ世界の話だという実感がわかない。なんだか宙に浮いた感じのとらえどころのない浮遊感が漂う。そんなとらえどころのない、答えもあるんだかないんだかわからない物語を読みながらも、いかに今の自分が狭い世界で生きているのか、そして自分とは違う世界を生きる人を理解するというのはどういうことか考えさせられる。いや、もしかすると自分と違う世界の人だけじゃなくて、同じ世界だと思っている人たちのことを理解するということも、同じくらい難しいことではないのか。自分の外部に半ば強引に引きずり出されて、そんなことを考えた。たぶん答えはないのだろうけれど。