青土社。副題『ロマン主義から世紀末まで』。
本書は、美術展のカタログや雑誌、美術全集などに寄せた論考を集めたものである。そういった類いの本なので、西洋近代絵画史を系統立てて解説しているわけではない。肖像芸術、ロマン主義、ジャポニスム、ポスター芸術といったように、あるテーマを取り上げてそれに沿って論じていたり、モディリアーニ、マネ、ゴッホといった画家に焦点を当てて論じていたりする。画家に焦点を当てたものでは、モディリアーニのものがおもしろかったが、ビアズリーを取り上げているのには驚かされた。あ、そこ行くんだ、という感じで。
本書全体をとおして、時代考証に多くのページを割いている印象を受けた。西欧史を知って絵画を観るのと知らないで観るのとでは、同じ絵を観るにしても全然違う受け取り方ができるんだ、ということを強く感じた。絵を観るのは、目の前にある絵そのものを観てただ感じるだけでいい、という考え方ももちろんあるけれど、そうじゃなくて時代背景や画家その人をとおして絵を解釈するという見方もあるということがよくわかる。どっちが正しいとかそういうことじゃなくて、絵にはいろんな見方があるということにすぎないのだけれど。ただ、本書のように、絵の描かれた意図というようなものを透かして絵を観るということは、とてもスリリングでおもしろいと思った。