講談社現代新書。
地球上からいっさいの生物が絶滅したとして、それでも夕焼けはなお赤いだろうか。
のっけからそんな問いに襲われる。え?赤いに決まってるじゃん。何言ってんの?とつい口にしたくなる。が、例えば赤を認識しない生物だけからなる星の夕焼けは赤いか?と考え直してみると、はじめの問いはあながちおかしな疑問ではないことに気づかされる。
これは、哲学の謎を巡る「ぼく」と「私」の2人の対話集である。難しい哲学用語も哲学者の名前もまったく出てこない。ただ、ちょっとした疑問と、それについてのいろんな考え方だけが話される。
世界はたった5分前に始まったばかりで、周りにあるモノもぼくたちの記憶もすべて5分前につくられた。だからそれよりもずっと前から世界は始まっている気になっているけれど、実は違うんだよ。昔の記憶ごと5分前につくられたんだよ。
ぼくが見ている「赤」と君が見ている「赤」って本当に同じなんだろうか。実は違う風に見えていて、たまたま同じようにそれを「赤」と呼んでるだけなんじゃないだろうか。
ホントにちょっとした疑問、でもそう簡単には答えづらい、というか答えられない疑問。そんな哲学の謎を巡るぼくたちの冒険。「ぼく」と「私」はいろいろな方向から答えを見いだそうとするけれど、答えは出ない。謎は謎のまま残される。
哲学する、っていうのは、こういうことなんだ。思春期の頃にふっと頭の隅に沸いた「ぼくは違う星から来た王子で、それまでの記憶を全部消されて、地球の記憶だけを植え付けられたんだ」というような他愛もない妄想も、もしかしたら哲学の入り口に一歩足を踏み入れていたということなのかもしれない。 なんかそんな風に思えて、哲学が身近に感じられた。哲学は、小難しいことばかり考えている「哲学者」と呼ばれる人たちの専売特許ではないんだよ、とこの本は教えてくれる。