岩波新書。
美術史といわれても、ルネッサンスの頃までのギリシャやイタリア、その後のフランス美術史くらいならなんとなく思い浮かぶのだけど、イギリス美術は系統立って思い浮かばない。ターナーやカンスタブルといった風景画、ミレイやロセッティといったラファエル前派くらいが単発的に頭にのぼるくらいだ。フランドルやスペインの画家についても状況は似たようなものだけれど、イギリスもまた、私にとっては未知の世界だった。それが本書を読むことで、イギリス美術がイタリアやフランスなどとはまた違った系譜の中に位置づけられるということが、よくわかった。
美術というものは、単に美術そのものの枠内のみで語り尽くせるものではなくて、政治や宗教、社会情勢などとの関連抜きには語られ得ないということを、強く意識させられた。例えば宗教革命による偶像崇拝の禁止によって、多くの美術品が破壊に追いやられたという事実にはショックを受けたし、そしてそのことによって、イギリスでは歴史画以外のジャンルの絵画が独自に発展を遂げたということもまた、興味深かった。
イギリス美術はどちらかというと私の中で脇に追いやられていた分野だったのだけれど、この本を読んで、もうちょっと深く知ってみたいと思うようになった。