『マニエリスム芸術論』若桑 みどり

 ちくま学芸文庫。
 手法や様式といった意味の「マニエラ」という言葉から派生した「マニエリスム」は、ルネサンスとバロックの間頃に花開いた芸術の様式概念である。でもこの本が書かれた1970年代は、まだ日本では定着していなかった言葉だったのだという。そんな時代に編まれた先駆的な硬派の芸術論が本書である。
 マニエリスムというと「ねじれ」や「寓意(アレゴリー)」が特徴的なのだというおぼろげな知識はあったものの、その背後にある思想や時代背景、あるいは実際にその作品を作った芸術家についてはよくわかっていなかった。本書における中心人物のひとりであるミケランジェロは、私の中ではルネサンスの芸術家だったし、ブロンズィーノがどの時代の人だったのかすらよく知らなかった。キリスト教や宗教改革、新プラトン主義が芸術に与えた影響なんてものも考えたこともなかった。それがどうだろう。本書で行われている緻密な議論を読むと、何だかそれらが立体的に浮かび上がってくる。ただの表層的な絵や彫刻の見た目の話だけじゃなくて、その絵や彫刻がどうしてそのようにデザインされることになったのか、根本の思想から解きほぐしていく。
 文体は硬くて論文調だし、平気で専門用語を混ぜてくるし、内容も込み入っていて難しいけれど、マニエリスムがどのような芸術だったのか根っこからきちんと勉強したい人には、とてもいい参考書になると思う。

shizukiaki

札幌で絵やイラストを描いています。音楽や読書も好きなので、ブログではいろいろなジャンルの投稿をしています。