『暴政』ティモシー・スナイダー

 慶應義塾大学出版会。池田年穂 訳。副題「20世紀の歴史に学ぶ20のレッスン」。
 ヨーロッパでは、イギリスの君主制からの独立宣言(1776)後、3回の大きな民主的な局面を迎えたものの、そのときに建設された多くの民主制は破綻への道を歩んでしまったと著者は指摘する。その3度の局面とは第一次世界大戦後(1918)、第二次世界大戦後(1945)、共産主義終焉後(1989)のことである。著者は歴史は繰り返さないとするものの、歴史から学ぶことはできるとし、本書の中で20のレッスンを行っている。
 その一番初めのレッスンが「忖度による服従はするな」というタイトルなのは、もちろん日本のことを念頭に置いたものではない。しかしこれを単なる偶然と笑って済ませられるほど、軽い話ではない。ナチスドイツが政権を取って全体主義に向かっていったとき、おおむね民主主義に則った形でことは進んだ。その一端を担っていたのは、ごくふつうの国民だったのだという。
 本書で書かれているレッスンのひとつひとつは、それだけで暴政につながることはないかもしれない。しかしそれらが組み合わさったとき、暴政は始まる。「組織や制度を守れ」「自分の言葉を大切にしよう」「自分で調べよ」「危険な言葉には耳をそばだてよ」。どれも当たり前のことに感じるかもしれない。でもその当たり前のことが当たり前でなくなっているからこそ、著者はこうして警鐘を鳴らす。本書はアメリカ国民に向けて書かれたもので、暴政という言葉を明らかに現大統領による政治手法と結びつけている。そしてロシアやトルコの指導者とも。
 おそろしいのは、これらのレッスンが今の日本人にとっても他人事とは言えない内容になっている点だ。歴史に流されてはいけない。歴史に学ばなくてはならないのだ。

shizukiaki

札幌で絵やイラストを描いています。音楽や読書も好きなので、ブログではいろいろなジャンルの投稿をしています。