『もうひとつの空―日記と素描』有元 利夫

 新潮社。
 有元利夫は戦後まもなく生まれた日本の画家である。ロマネスク風のフレスコ画のような絵や版画を残し、38歳という若さでこの世を去った。本書はその有元による晩年10年弱の日記や、美術誌などに取り上げられた文章、そして彼の描いた素描などを掲載している。
 素描はすごくうまいというものではないのだけれど、彼が完成させた絵画と同じように、素朴で不思議な雰囲気を漂わせている。文章はとてもしっかりとしていて、芸術に対する真摯な態度が伝わってくる。苦しみながらも自分の描くべき絵のあり方を模索していっている様子がうかがえる。バロック音楽を愛し自らリコーダーも奏でていた彼が、絵の他に大事にしていた音楽と向き合う姿も垣間見ることができる。
 芸術家とは、画家とはこういう人のことをいうのだな、と強く思った。そういえば、「ゴッホの手紙」という本を読んだときも同じような感覚を覚えた。そして逆に私自身を振り返ってみると、絶対に芸術家ではないと断言できる。絵そのものに対する向き合い方がまるで違う。この本を読んでいるときにそのことに気づき、大きなショックを受けることになったが、本物の芸術家の言葉にこうして耳を傾ける時間がとれたことは大きな幸運でもあったのだなと思う。今度彼の展覧会が催される機会にうまく巡り会えたら、必ず足を運ぼうと思っている。

shizukiaki

札幌で絵やイラストを描いています。音楽や読書も好きなので、ブログではいろいろなジャンルの投稿をしています。