『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』加藤 陽子

 新潮文庫。
 タイトルだけを見ると第二次世界大戦のことなのかな、と思ってしまいそうだけど(私だけ?)、扱っているのは、日清戦争、日露戦争、第一次世界大戦、満州事変と日中戦争、太平洋戦争であり、日本が当事者となった19世紀末から20世紀中盤までのほぼ半世紀にわたる「戦争」を対象としている。本書は、これらの戦争について著者が高校生を相手に行った5日間の講義を文字に起こしたものだ。
 日本国内の政治家や軍人などの思想だけにとどまらず、ヨーロッパ諸国やアメリカ、ロシア(ソ連)、中国や朝鮮といった国々の思惑をも取り込みながら、日本が戦争に向かっていった経緯を生徒との対話を通じて語っている。ときに地図などの図表も使い、地政学的な観点からもわかりやすいように解説する。
 戦争が悪だとか善だとか、あるいは日本人が悪だとか善だとか、そういう視点とは一線を画した歴史的事実を追う姿が感じられる。私たちが中学、高校で習ってきたような、ただ年表と事件だけを覚えさせられたのとは違う、もっとずっとたくさんのかけひきや思い、偶然と必然の混交によって歴史は作られてきたのだな、と目から鱗が落ちた。この本は結構な分量のある文庫だけれど、それでもここには書ききれなかった多くの人たちの、星の数ほどの思想が裏には隠れているんだということを、十分に読者に想像させてくれる一冊だと思う。逆に言えば、この本に書かれていることは、これはこれで事実を丁寧に集めたものだけれど、ここでは拾いきれなかった事実もまたたくさんあるんだから、みんなもっと歴史に興味を持って勉強して、深い理解につなげていってね、という温かくも強いメッセージを感じる。おそらくこの本は、日本人が戦争をせざるを得なかった理由について生徒に解説しているというよりは、歴史を解読する楽しさを生徒に伝えることに主眼を置いているのではないだろうか。

shizukiaki

札幌で絵やイラストを描いています。音楽や読書も好きなので、ブログではいろいろなジャンルの投稿をしています。