KADOKAWA。
ブラックマーケティング。字面からなんとなくわかると思うけど、ギャンブルとか詐欺とかの悪徳商法、ビジネスとしての宗教などを指している。
この本を読んでとても意外だと思ったのは、このブラックマーケティングという分野に対するマーケティング理論の研究がほとんどなされていないということだ。
あれ、わりとここに書いてある話って、たまに本で読むことあるのにな、と思った。だけど思い直してみると、そういうことが書いてある本はマーケティングというよりは心理学とか行動経済学、行動認知学の分野だったかもしれない。
この本は中野と鳥山の二人の研究者が書いているんだけど、ひとつのテーマ(というかコラムレベルの単位)についてはひとりで書いているものの、それが対話のように続いているのがおもしろい。一方が書いた文章に対して、呼応するように次のテーマが続いている。
原稿をちょっと書いたら相手に送って、続きを書いてまた次の相手に送って、ということをやってるんだろうか。それともインタビュー起こし?編集?
ちょっとおもしろい構成だな、と思った。
全体的には脳科学の面からブラックマーケティングを論じている。ヒトはこんな状態になったらドーパミンやらオキシトシンやらセロトニンやらの影響で、いい気分になったり悪い気分になったりして、こういう行動をとりがちで、それが悪徳商法に利用されている、みたいな。
そういう神経伝達物質の出方って、遺伝子の影響もあるみたいで、それが国民性にもつながってるんじゃないか、っていう議論もあった。
今までのマーケティング理論がこういうブラックな事項を守備範囲にしていなかったのは、マーケティング理論が発達してきた経緯もあるみたい。
悪徳商法っているのは、0.1%の引っかかりやすいヒトだけを標的にしてそれをカモにがっぱりもうけるわけだけど、今までのマーケティング理論は、大衆に向かってどれだけ多くのモノを売るかという大企業目線の大きな枠の理論だったから、と著者は言っている。大企業目線だと、倫理的な面でもブラックなことは扱いづらかったという面もあるらしい。
そして、これからのマーケティング理論は、ブラックマーケティングのようなニッチな分野も取り込んだ上で、脳科学とリンクさせて、包括理論としてやっていくべきだとしている。そうすれば悪徳商法にだまされない方法もわかってくるだろうし、理論としてもひとつ上の段階に進めるだろうと。
実は本書の中には、ん?その解釈はちょっと勇み足じゃない?そのデータからその結論を出すのは違うんじゃない?むしろ危険じゃない?というような議論も、ままある。でも著者らもそれは自覚しているわけで、この本で書いていることは
定説として固まったものどころか、「もしかしたらこうなのではないか」という、「気づき」の段階だということ
なんだと終章で述べている。読者にはそんな融通無碍な面白さを楽しんでもらって、問題提起として受け止めてもらいたいと。
装丁が派手で怪しげですが、内容はちゃんとしたサイエンス寄りの本で、しかも刺激的でおもしろいです。